「何これすごい!」

「足立さんの完成イラストを元に作った、バルーンリリースのジオラマ。担任こそあんな感動してるけど、実際みんなを唸らすにはこれくらいしないとダメかなって、足立さんお得意のAMEZONをぽちっと」

「やべー!」


 段ボールで作られたと言う1/1500スケールの我が校舎と、そこに浮かぶ風船に因んだ小さな和紙風船。バルーンに関してはその紐までちゃっかり再現されていて、驚きの完成度に目を輝かせていた私はスマホを取り出してバーストを繰り返す。


「昔からプラモデルとか作んの好きだったんだ。俺馬鹿だから、頭で想像するの苦手で、形にしないと物の想像がある程度つかなくってさ。それで」

「すごいよ薮内くん!これもう、これはこれだけで作品として成立するよ!」

「だめだよこれはあくまで完成予想図だ。これ見て協力者を増やしたり、興味を持ってもらうための道具でしかない。いずれ壊すよ」

「そんな、もったいない」

「形あるものいつか壊れる。無くなった方がその点気は、楽」


 一人名言マンだ、と思っていたら細工を加えるのだと、完成したジオラマに薮内くんが屈み込む。どうやら切り込みを入れたいみたいだ。すぐ目についたカッターを手渡してあげると、さんきゅ、と受け取った彼が立ち上がった。

 その拍子にからん、と何かが落ちる。


「薮内くん、なんか落ちたよ」


 暗がりに落ちたそれに手を伸ばして、おや、と思う。多種の刃物が付いた、折りたたみ式のサバイバルナイフだった。


「…これ」

「御守り」


 持ち上げてよく見る前にぱっ、とかすめ取られた。こっちには目もくれず、珠玉の一作でもあるジオラマを見ながらそれを学ランの尻ポケットにねじ込む彼は、見上げる私をやっとちら、と見る。


「これ、このあとの4限で早速みんなにお披露目しよう。そしたら足立さんの考えてること、きっとみんなに伝わるよ」

「プレゼンは苦手なんだよなぁ」

「俺よりマシだって、頑張れ」



 意気込んでそうかな、そうだよ、なんて笑った。

 やる気はあったし、これだけのものを見せたらばかにしてばかりのみんなを頷かせることなんていとも容易いって、疑う余地なんて無かった。だからやる気満々で登壇したんだ。プレゼンは完璧だった。完璧だったのだ。







 結果は、散々だった。

 LHRでバルーンリリースについての進捗状況と賛同意見を得るため、薮内くんの作ったジオラマを見せたときはさすがにみんな驚いていた。でもすぐ表情を曇らせて、許可や資材確保を怠って結局無駄な時間を費やして遊んでるとまで言われた。

 イメージを見せればみんなのやる気が出るなんてのはどだい夢物語だったんだ。担任はすごいねっていってくれたけど、クラスメイト全員が聞く耳持たないんじゃ意味なんてない。

 打ち砕かれたとはこのこと。そのとき全部がふりだしに戻ってしまった。