「あの、タケちゃんはどうして怒ったの?」
「……うん」
また言葉を言うのを躊躇うような間を持った。代わりに、
「美優ちゃん、昔、右京に会いに家に来たことがあったわよね。あの時、訊けなかったんだけど、もしかして付き合ってたりするのかな?」
その質問に頷いた方がいい気がして「はい」と答えた。
すると、「じゃあ、色々知っているんでしょうね」と呟き、辺りを気にするように、これから休憩だから外で話さないかと持ちかけた。
エレベーター近くの長椅子に座って待っていると、おばさんは程なくして来た。
「待たせてごめんね。どこか行こうか? お腹すいた?」
わたしは首を振って「ここでいいです。休憩の邪魔しちゃうから。おばさんが大丈夫なら」
「邪魔じゃないけど」と、呟いたけど、わたしが黙っていると隣に腰かけた。
「学校は楽しい?」
「あ、はい」
「美優ちゃんももう高二だよね。本当に大きくなってね」
「はあ」
「双葉の制服、やっぱり可愛いわね。似合ってる」
学校の質問を続けるおばさんは、なかなか本題を切り出さない。はぐらかされてるようにも感じた。
「あの、おばさんは、ここで働いてどれ位なんですか?」
「まだ三ヶ月位かな」
「最近ですね」
「そうね。ようやく慣れてきた感じかな」
穏やかな口調に、わたしは泣きたくなった。
「どうして、戻って来ちゃったの?」
自分でも驚く位、尖って聞こえた。おばさんが、目を見開くから慌てて言い直す。
「タケちゃんから、離婚しておばさんが県外に行ったって聞いたから驚いちゃって」
だけど責める気持ちが伝わったのか、おばさんは「ごめんなさいね」と顔を歪ませた。