風が吹き時は流れて。
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清白《スズシロ》と黒猫ネマが外で日向ぼっこをしている。
「あなたと私だけになってしまいましたね」
清白が膝の上の黒猫を撫でた。
老衰で亡くなった志鳥を見送った後、彼の計らい通りに清白はバーナ重工業の研究室に入りメンテナンスを受けている。
それからまた時間が流れ鷹人と真吏、有秀もいなくなった。
鷹人と真吏の子供も、成人して土地を離れている。
そのまた子供を連れてたまに会いに来てくれることが、今の一人と一匹の唯一の楽しみだ。
「あなたの種族は今の時代、長生きしても二十年だそうですが。もう百年以上になりますね」
バーナ重工業研究室の中庭は薬草や花々がよく管理手入れされていて、とても気持ちがいい。
「でもそろそろ、眠そうですね。私もです」
清白の黒猫を撫でる手がゆっくりになった。
黒猫は目を瞑り喉をゴロゴロと鳴らしている
「また皆さんと会えるでしょうか。また会いたい。……マスター……」
清白の手が止まる。
その少し後にゴロゴロの音が止まる。
「……」
小さな声で黒猫が鳴き声をあげる。
呼吸が止まる。
風が清白の髪を揺らし、黒猫の髭と毛並みが揺れた。
一人と一匹は幸福そうに眠っているように見えた。
夢の中で再会を果たしているちがいない。
様々な運命と偶然、出会いを果たし地上に産まれた全ての生命達にバラードを捧げる。
『咎人と黒猫に捧ぐバラード』終わり