パンケーキをペロリとたいらげ、ガラスポットから同じく透明なガラスティーカップに熱い紅茶を注ぐ。
それを飲み一息つくと、華の携帯型電話が鳴った。
耳に当てる。
「渕脇さんとこの、あなたね。……譲渡会の手伝い?いいわよ。いつやるの」
葦澤攻からの電話のようだ。
通話を切った華は、紅茶を飲み干す。
「保護猫の譲渡会やるみたい。私も協力させてもらうわ。ここの猫もどきは、拾われてラッキーだったわねえ」
鷹人に拾われた黒猫ネマは、華から去勢手術を受けた。
「前より人懐こくなった気がします、ネマ」
華は頷く。
「性格が穏やかになることは多いわね。あのお兄ちゃんも丸くなって。修行期間に何かが取れたみたい」
華は鷹人がなぜ姿を消していたのかは知らない。
喫茶店の料理の研究で海外に行っていたことに表向きの理由だ。
華は椅子から立ち上がる。
「世帯を持つと、柔らかくなるのかもね。私も考えてみるかあ」
華は代金を払うと店を出て行く。
その後ろ姿を見送り、有秀が口を開いた。
「葦澤攻って奴いるだろ?渕脇会長の秘書の。そいつ、華先生にアタックしてるらしいぜ」
赤ん坊のミルクを与え終え肩に赤ん坊の頭を乗せ優しく背中をさすり、ゲップを出すようにうながしている。
動物好きの性格が惹き付けているのか、葦澤は何かと理由をつけて華と会っているらしい。
「そっかあ。葦澤君は、積極的だね」
真吏が笑う。
華の病院の受付と助手のイケメン二人が葦澤を気に入っていることも、真吏は知っていた。
「鷹人は意気地なしの上に、奥手です」
ヒューマノイド清白が華の使った食器を片付ける。
「でもまあ、そこが鷹人君の良いところでもあるから」
真吏が云うと有秀は口笛を鳴らす。
「あんた普通に、のろけるな。おまえの母さんと父さん、ラブラブだぞ?」
背中をさすり続けていると、ようやくゲップが出た。
大きな音が店内に響く。
「うお、でけぇ。おまえもお腹いっぱいだよな。色々と」
「どういう意味よ」
真吏が顔を赤くさせ口を尖らせている。
ふたりのやり取りを聴きながら清白はテーブルの片付けを済ませ、厨房へ戻っていく。
厨房内では鷹人が黙々と、新メニューを考え調理している。
「ネマを見てきます」
鷹人は頷いた。
エプロンを取り二階にある鷹人の使っていた部屋へ向かう。
今は二人は真吏のマンションで暮らしているが、いずれ引っ越して来る予定だ。
喫茶店には黒猫ネマも連れて働きに通っている。