『時間をあげる。少しの時間ならば私も暴走を抑えていられます。戻らなければ人間は凄惨な未来を歩むことになります』
鷹人は人工知能に背を向け歩き始めた。
「どこへ行くの」
「あなたを家まで送る。帰りは一人になる」
さっさと歩き急ぐ青年を追いかけ、腕を掴む。
「な、なに云ってるの?そんな場合じゃ」
「渕脇忠行社長と、交際関係にあるんだろう。心配する」
真吏の心臓が音をたてた。
首を横に振る。
「違うの、誤解よ!たしかに渕脇社長と食事には行ったけど、本当にそれだけなの」
感情を試すような行為は、それ自体を壊す。
渕脇の言葉が脳裏に聞こえた。
「鷹人君が思っているような関係には、なってない。憧れだっただけ」
必死に答えた。
それが逆に不信に思われないかとか、彼は年下で自分は年上の大人の行動とか、どうでも良かった。
彼の誤解を解いて渕脇と何も無かった事実だけを、わかって欲しい。
必死に言い訳を続ける真吏に鷹人はフッと笑う。
「あなたのそういう人間的な感情が好きだ」
鷹人が真吏を見つめている。
「おれが人間でいるために、あなたは大切だ」
真吏は顔をあげ、鷹人は真吏を見つめる。
「年下は嫌なんだろう?だが、こうして話すのは最後だから」
鷹人の手が顔に触れる。
「そばにいたかった」
真吏の瞳から涙が溢れる。
「そんな悲しいこと……云わないで」
「悲しいのか?」
不思議そうに鷹人は云った。
「おれがまた別の何かに、生まれ変わったとしても」
真吏の涙を指で拭う。
「また、あなたを好きになりたい」
「鷹人君」
鷹人の護衛業から始まり。
養父で喫茶店経営者の志鳥に出会い。
黒猫ネマや、苦手だったヒューマノイド清白と友達になれた。
鷹人とネマと、もっと一緒にいたかった。
それが当たり前に続くと思っていた。
二十年前の後悔を経験したはずなのに、また同じことをしてしまった。
「有秀の病院の帰り道に本当は伝えたかった」