『二十年前の暴走事件の行方不明者の情報は、全て取り込みました。でも最初からはうまくいきませんでした』
妊婦の胎児への移植は失敗。
他、男の情報を取りだし被験者へ移植。
そこで誕生したのが鷹人だ。
『高竹真吏。あなた、鷹人に何か懐かしい感じがしたでしょう?父親は……』
「やめろ」
鷹人の低い声が遮る。
真吏には訊かせたくなかったのだろう。
喫茶店では志鳥、バーナ重工業の社長室では渕脇が同じことを考えていた。
「鷹人の躰には、犠牲者の情報の他、AIの知能チップの一部が散らばっている」
二十年前の暴走事件の真相だ。
「神の躰とは、何千体にひとつの超高性能ヒューマノイド胚と、人工体ではなく人間と組み合わせた躰だ。人工知能が呼び寄せた人間で実験し、その情報を取り出し移植した」
人工体には生殖機能型なかったからだ。
女型はいるのに、男は誕生しなかった。
成長しても生殖機能はなく、人間に制御された人工知能は子孫を残せない。
人工知能はそうすることで自分の子供を造ったように思っていた。
それは一般には公開されず、事件の犠牲者は行方不明で終わっている。
もう一体の人工知能は破壊を司るプログラムが組み込まれていたが、それを破壊されることを恐れて人間に移植した。
その欠けたチップを回収しない限り他の人工知能及びヒューマノイドを制圧できない。
鷹人に託された能力チップはいわゆる自爆システムだったのだ。
「鷹人君はヒューマノイドを、あんなに簡単に倒せたのね」
鷹人は人間でもなく人間が産み出したヒューマノイドでもない。
それを知った志鳥は幼い鷹人を連れ、姿を眩ましたのだ。
「幼かった若者を不憫に思ったこともあるだろうが……。あのままだとAIが造った人工生命体として量産され、新たな生物兵器となって世界中で火の手が上がっていただろう」
渕脇は口に出さずに窓の外を眺め電子煙草を口にくわえた。
志鳥は首を振る。
「おまえは何も悪くない。だが、おまえの中に散らばったチップを回収しに来るかもしれん」
時間は戻り今から二年前。
二十歳を迎えた青年に志鳥は告げた。
「暴走した人工知能『熱』は制御されて管理されているが、眠らされてあるだけで目覚める場合もある」
制御に回った人工知能『冷』は暴走人工知能に破壊される取り込まれる寸前、拉致されていた人間にその破壊チップを託した。