世界中で一斉にドローンが解き放たれ、特定の電磁波を放出しヒューマノイドの制御装置を破壊し、世界は混乱に陥っていた。
喫茶店ではヒューマノイド清白が身を震わせている。
「大丈夫か、清白」
「はい。大丈夫です。でもマスター、私の起動を停めた方が、いいのではありませんか」
この建物が電磁波をカットするとはいえ、いつ破られるかわからない。
そうなれば清白は主である志鳥も何もかも忘れ暴走する可能性があるのだ。
「心配か?」
「心配……そうですね。そういう感情です」
志鳥は微笑する。
「清白。おまえは人工生命体でいわゆるヒューマノイドだが、それを飛び越えつつある。ちゃんと感情を持っているじゃないか」
志鳥は紅茶を淹れるとアシスタント・ヒューマノイドの前に差し出す。
「おまえは制御されていると思っているようだが、違うぞ。そんな物はとっくに外してる」
志鳥の言葉に清白が目を丸くする。
「それだ。清白」
反応を愉快そうに見てから、ヒューマノイド創造主は云った。
「おまえは単なるロボットなんかじゃない。ちゃんと考えて行動したり、感情を持つ生命体なんだ」
バーナ重工業が開発したヒューマノイドだが、それを再構築し誕生させたのが清白だ。
それも従来通り制御チップでコントロールすることも大切だが、育てる環境では感情が芽生え、物事を色彩豊かに考え表現できるようになる。
命令だからとむやみに生物に危害を加えたりすることもない。
時に痛みを伴うこともあるが、それが生きているという証ではないのだろうか。
「渕脇のとこで創ったものとは、もう違う。ちょっと力が強くて、珈琲を淹れるのがうまいお姉さんだ。わかったな」
志鳥は自分の理論を証明したが、それはあくまでも清白一体のみである。
埋め込んだ制御チップを完全に外したわけではなく、オフ状態にしているだけなので違法ではない。
しかしこれからも、それをオンにする予定はない。
世間に公表しても危険だ違法だと責められることは目に見えているので、秘密だ。
ヒューマノイド清白の前には熱い紅茶が置かれている。
カップを摘まみ口に付けた。
「熱いです」
「そりゃあ悪かったな」
店主は苦笑いを返す。
人間の手で造られ破壊されて自爆させられたヒューマノイドは、新たな人生を歩もうとしている。
洗い物をする主の姿を見つめ、娘でありアシスタント、男兄弟の姉である清白は、ひとつの決意を自身に誓うのだった。