文化祭当日である。

有秀の通う高校では、学年クラス毎に様々な催し事が行われていた。
お化け屋敷、迷路、流行りのドリンク店な
どなど……。
様々な思い入れのある仮装をした高校生男女がチラシを配ったりプラカードで案内したり、学校の文化祭を楽しんでいるようである。

「結構、人がいるね」

老若男女、訪れている。
身長の高い真吏と鷹人は、それなりに目立つ美男美女であり、真吏は十代の少年から見れば大人の女性である。

何人かの生徒が真吏に視線を奪われていたのだが鷹人の無言の圧力を察知し、去っていった。
真吏は気づいていない。

ふたりが昇降口付近に近づくと何やら人だかりが出来ており、混雑した隙間から白髪(はくはつ)の頭が見える。
有秀のようだが、カメラやスマートホンを向けられている所をみると、どうやら写真を求められているらしい。

『3-A特製!! 幻想カフェ ポップコーン 1個100円!オリジナルミルクティー1杯 200円』
と書かれたプラカードを持っている。
「写真を撮るには、カフェで注文して引き換え券をもらってください。よろしくお願いします!」

同じく仮装した学生が数人おり対応していらる。
白髪の少年はし周囲を見回しており二人を探しているようだ。
こちらに顔を向け、瞳が合う。

「真吏さん、鷹人!待ってたよ!」

二人を見つけると有秀が笑顔で手を振りながら、人だかりを掻き分け走りよって来た。
中世をモチーフにした豪華絢爛な出で立ちの皇子のような仮装をして、腰からは鞘におさめた細身の剣をぶら下げている。
有秀の白髪とバイオレットの瞳はそれに合っていて、まるでファンタジー世界やゲームから抜け出したキャラクターのようだ。

「高校生が、というより有秀君が眩しすぎるぅ……」

高校生の青春のあまりの若々しさが眩しく、手で遮る。
アラサー目前の彼女には眩しすぎて目眩を感じるほどだ。

「はは。鷹人は懐かしいだろ?」
「四年ぶりだな」
「鷹人君も、ここの卒業生なの?」

鷹人は頷く。

「鷹人は頭いいんだよ。大学も二年で切り上げ卒業したんだ。他の大学も行けば良かったのに」

青年は海外の大学を卒業し帰国後は志鳥の喫茶店を手伝いながら、護衛業をしているらしい。

「志鳥さんには世話になったからな」

志鳥はいらないと云っているが、鷹人は金を志鳥に返しているという。

「あのマスターが育てた子供とは思えないほど、真面目ね。鳶が鷹を産む?いえ育てたのかな」

真吏は毒づいたわけではなく素直な感想を述べただけだが、店のカウンターで仕事中の志鳥が、そのタイミングでくしゃみをしたことは、知るよしもない。

「室井(むろい!)早く戻って来い!」

写真撮影を待っているメンバーに呼ばれた。
その後ろを一人の女が歩いていた。
鍔広の黒い帽子に黒いワンピース。
青年はその女を目で追っている。

「色々、見て行ってね。美術部の作品もすごいし、ダンス部の演技も格好いいよ」

有秀は手を振ると再び戻っていく。

「有秀君のクラスのカフェに行ってから、オススメを見に行こうか……あれ?」

青年がいない。
見回してもいない。

「え……ウソでしょ?まさか帰ってないよね」