「『幻想カフェ』っていう喫茶店。好きな格好して、ポップコーンとかミルクティーとかドリンクを売りまくるんだ」
幻想という店名だが売り物はポップコーンとアメリカンなものであったり、ミルクティーであったり。
コンセプトは気にしていないようだ。
ポップコーンメーカーは志鳥の店から貸し出す予定てある。
「ポップコーンメーカー、お持ちなんですか?」
「ああ。たまに町内会のイベントで作るんだ。普段は出してないけどね」
他に、わたあめメーカーも所有しているらしい。
「儲けて儲けて、儲けまくるぞ。クラスの売り上げ金は、そのままクラス予算になるんだ」
鼻息荒く少年が拳を作り息巻いている。
意外に守銭奴な若者のようだ。
「へえ。私も行きたいなあ」
「ぜひ来てよ。鷹人と一緒にさ。ぼくはクラスの子が作ってくれた、皇子に仮装するんだ」
「有秀君の皇子さま?それは見ないとね、ふふ。鷹人君は……来てくれるかなあ」
青年は今日は外出しているらしく、店にはいない。
「仕事ですか?」
「いや。動物病院に行くと云っていたぞ。そろそろ……」
帰って来る頃、と壁に掛かった時計に顔を向けた時、喫茶店のドアが開いてチャイムか鳴った。
長身の青年が姿を現す。
手には猫の入ったゲージを手にしている。
「鷹人君、こんにちは」
「高竹真吏」
店内の真吏に気付き、無感情に返す。
「またフルネームで云う」
真吏がため息をつき、ミックスサンドの皿に目を落とす。
それを差し出した。
「病院、お疲れさま。鷹人君も一緒に食べない?」
差し出された皿から鷹人はひとつ、それを掴むと口に運ぶ。
歩みを止めずに無言でカウンター横から自室への階段へ上がって行く。
「もう、お礼とか何か云ってよ。あと私も猫と遊びたい」
真吏は残ったミックスサンドを掴むと、青年の後を追いかけて二階へ上がって行った。
志鳥は空の皿を苦笑しながら下げる。
「お嬢さんはいつまで年上に、こだわるつもりかな?概念は捨てればいいのに」
「鈍い女だからな。あと年上のプライドとやらがありそうだ」
またしても秀道に変わった有秀が皮肉気な口調で呟く。
少年にもサンドイッチの乗った皿を前に置く。
「ああヒド。文化祭のポスター、あるなら店に貼ってやってもいいぞ」
「人が集まる場所に貼ってこそ、効力を発揮するんだぜ」
秀道はサンドイッチを満足感そうにかじり、養父は無言であった。