二ヶ月ぶりの喫茶店だ。
依頼終了からは、訪れていない。

「マスター、お久しぶりです」
「おや、お嬢さん」

志鳥は笑顔で真吏を迎える。
例の少年は学校に行っているらしい。

「鷹人君の猫を、見せてもらいに来ました」
「……ということは、鷹人の部屋へ?」
「はい。何か?」
「あ、いや。別に……」
「?」

キッチンカウンターの横を通り抜け、真吏は鷹人の後を着いて二階の階段を昇る。

「なあ、清白(スズシロ)

後ろ姿を見送った後、志鳥がヒューマノイドに話しかける。

「あの二人は、どうなると思う?」

鷹人が依頼人に二度会うことは今までにない。
しかも自室に呼び入れるとは、よほど真吏が気に入っているのか。
清白は少し考え、口を開く。

「鷹人に勇気があれば、進展します」
「あいつは意気地無しの上に、奥手だよな」
「おっしゃる通りです」

清白はそれ以上は何も云わず、店内のカウンターの拭き掃除を始めた。

「色々、経験を積んで生物は成長するものです。(わたくし)のような、データを詰め込まれた人工体とは違います」

清白は答えながら店内清掃をこなしていく。

「おまえも成長はするだろう」

清白は顔を上げる。
創造主の考えとは違い、美しいヒューマノイドの伝えたいことは違うようだ。

「私は所詮、ヒューマノイドです。それ以上でもそれ以下でもありません」

清白は一度、アキラルこと鷹人に破壊されている。
完全ではないが、その時の記憶は残されており、それを彼女は思い出していた。

「マスター。(わたくし)は高竹真吏を襲撃しましたが、攻撃を避けました。生物には計れない何かがあります」

清白(スズシロ)はカウンターに上げた椅子を元に戻すと、布巾でテーブルを拭き始める。

「鷹人は強くても大人びていても、まだまだ若い青年です。見守っていきましょう」

ずいぶん前から既に家族であり、姉だったような口調である。
しかし志鳥がそういう位置付けにしたのだし、第一に清白の云う事は正論だ。

「そうだな。おまえの云う通りだ」