編集部に苦情が来たと激怒していたが、そんな事は知ったことではないし、それ以上に怒っていたし悲しいし虚しい。
一晩、時間が経過しても気持ちの荒ぶりは治まらず、気晴らしにショッピングに出たのだった。
そんな時に青年と再会した。
この無感情無表情の若者に自分に興味を持ってもらえることの方が、邪な社長と食事するよりも数億倍も嬉しい。

「買い物よ。日用品の買い出し。鷹人君は、あの黒猫の?」

足元に置いてあるレジかごに、改めて視線を落とす。

「たくさん買うんだね」
「ああ。すぐ無くなる」

鷹人は鳥羽をゴム紐と棒で結んだ玩具を選ぶと、かごに入れる。
首輪もサイズが合わなくなってきたらしく、新しい物を選んでいる。

「結局、鷹人君の家族になったんだ」

星形チャームの付いた白色のシンプルな首輪をカゴに入れる。
鷹人は連れ帰ってしまった子猫を後日、修理工場の従業員に確認しに行ったのだが、子猫がいたことも知らなかったという。
登録もなく届け出もないので青年が保護し、部屋で飼っているということだった。

「成長ぶりを見たいな。鷹人君の家、行ってもいい?」

鷹人は無感情に頷く。

「かまわない」
「やった。マスターと清白(スズシロ)にも会えるね」

真吏も自分の買い物を済ませ、青年宅へ《赴(おもむ)く事となった。

「だが、その前に」

青年の足元には猫ゲージの持ち手を掴む。

「病院の時間だ」

買い物を終えた鷹人は、動物病院へ行くらしい。
その病院は五階建てのビルの一階にある。
築年数三十年の、やや古い建物だ。

ガラスの自動ドアの中へ入ると受付があり、一人の男性が受付テーブルの向こうに腰かけていた。
年齢は三十五才くらい。
整えた黒髪、男らしい整った顔立ち。
がっちりとした体型の美形である。

鷹人は廊下の長椅子に座ると足元に黒猫が、入っているゲージを置く。
待合室にも誰もおらず、患者は黒猫と仔犬だけのようだ。
一、二分程度待つと、診察室中から呼ぶ声が聞こえた。