無事、自分の記事が掲載された真吏は、その雑誌を持って喫茶店を訪れていた。
天井付近に設置されたテレビでは、真吏の記事を元にした事件として、ワイドショーで取り扱っている。

なぜ渕脇重工からヒューマノイドを流出させたのか。
テレビではそれを説明している。
ここ数年、勝部の修理工場は受注が減っており経営難に陥っていた。
それに加え身内の不祥事を真吏に暴かれ、これな世間に曝されれば営業停止にまで追い込まれる可能性があった。
そんなときにヒューマノイドの流出、それを別の企業に売却する予定であったのだ。

これは朝霧は知らない。
あくまで自衛のためだと言い張っていた勝部だが、売却した後はそれを一人じめして家族も工場も全てを捨て、新しい土地で愛人と生活していくつもりだったらしい。
そしてヒューマノイドを流出の手引きをしたであろう人物は、不明のままだ。

だが店内で交わされていたのは雑誌でもテレビの内容ではなく、店主の話題だった。

「マスターが科学者だったなんて」

真吏がため息混じりに口を開く。

「隠していたわけじゃない。云う必要はないと思っていたんだ。昔の話だからな」
「渕脇社長と、同級生だったなんて」

怨みがましく真吏は食い下がる。
というのも、真吏が店を訪れる少し前である。