ぶっきらぼうに話す青年に、真吏はクスリと笑う。

「あなたの猫なの?」

肩に乗っている黒猫を見つめた。
黒猫はアキラルの頬にすり寄って喉を鳴らしている。

「そういう訳では、ないんだが」

困惑気味に答える。
ヒューマノイドを破壊した時でさえ感情は動かなかったのに、青年は動揺していた。
真吏が手を伸ばすと黒猫は毛を逆立てて威嚇する。

「なんでよ?さっきは助けてくれたじゃない。性別は」
「オスだな」
「オスなのに、この私になびかないなんて」

真吏はそれなりにモテるし恋愛もしてきた。
だがそれは人間限定であるらしい。
その事情は青年の知るところではない。
真吏の無事を確認したアキラルは、培養液の液を抜くと自分の携帯型電話を回収する。
その間に真吏は立ち上がろうとしたが身体が動かない。
メモリを取り出したアキラルが、座りこんだままの真吏に再び近づく。

「大丈夫か」
「大丈夫なはずなんだけど……立てなくて」

怪我はないようだが腰を抜かしているようだ。
歩けない真吏に手をかけると、鷹人が軽々と肩に担ぎ上げる。

「きゃあ!?」
「あなたでも、そんな声が出るんだな」

鷹人は表情を崩さず、歩み始める。
真吏は顔を真っ赤にして身を震わせていた。
普通はお姫様抱っこじゃないのか。
私は米俵じゃない、と羞恥と怒り混乱が入り交じっている。

「おれを罵倒しないのか」
「するわ。とりあえず、有道くんと秀道くんを一緒に拐わせるなんて。何かあったらどうするつもりだったのよ!」

誘拐されるその前になんとかすれば良かった。
なぜ、そんな危険を伴わせたのか。

「確実な証拠を身を持って、知ることが出来ただろう?」

鷹人は歩みを止めないまま現場を録画した携帯型電話のメモリを、肩口に真吏の顔の前に差し出した。

「有道と秀道も目撃者だ」

青年の顔を見たかったが、背中と後頭部しか見ることが出来なかった。

「私の仕事も、考えてくれたの」

証拠が欲しいとぼやいていた事があった。
青年は答えるまでに、瞬き一回の時間を置いた。

「サービスだ。あなたにそう思ってもらえたら、いいが」
「追加料金なんて云わないでね」

いつの間にかアキラルのポケットの中に忍んだ黒猫が、瞳から上だけを覗かせ周囲をうかがっている。
二人と一匹は青年に連れられて修理工場の外に出ると、夜明けの太陽が笑顔のような朝陽で迎えてくれた。

何だろう。
真吏はどこか懐かしい感覚に陥る。
ずいぶん前に似たような事があったような気がするのだ。
そんなはずはないのに。
夢の既視感(デジャブ)だろうか。

担がれたまま、真吏が口を開く。

「ねえ。あなたの名前を教えて?」
「鷹人(たかひと)」

その光の中へ姿を消した入れ違いに、修理工場の騒ぎを不振に思った通行人が通報し、到着した警官が突入する。


とりあえず真吏の護衛の件は解決に至ったようだ。