「おいしい。味が少し薄いけど」

今はヒドではなくアルのようだが、この少年もひとこと多い気がする。
云い方が違うだけで中身は似ているのかもしれない。

「タダで食べておいて厚かましいわね。とりあえず、キャラメルラテはわかったわ。仕事があるから、もう帰ってくれる?」

真吏がため息をつくとアルは真吏を見つめる。

「怒った?」
「というより、呆れたわ」

真吏が再び口を開こうとした時である。

「高竹さんは、どうしてジャーナリストになったの?」

有秀が真吏を見つめる。
それは単純に疑問をたずねる表情であり口調であった。
特に隠す理由もないので真吏は話す事にした。
仕事は残っているのは本当だが、こんなふうに自分のきっかけを他人に打ち明けることは、初めてかもしれない。

「実は父を探しているんだけど……」

二十年前の人工知能暴走事件たが、その被害者に真吏の父親がいた。
はずだった。
確かに巻き込まれたはずなのに遺体は見つからず、そこにいた形跡がまるでなかった。

「あの事件は不可解な点が多すぎるの。警察は発表もないし、何も教えてくれない。だから自分で調べようと思って、ジャーナリストになったのよ」

今日は父親を思い出すことが多いわ、と真吏は食器棚から自分のマグカップを取り出すと、カフェオレを注いだ。

「何かわかった?」

真吏は首を横に振り、スプーンでカフェオレをかきまぜる。

「まったく。生存者の名前も消されてるし。今も、どうしているかわからないし」

プライバシー保護法により人質だった人物の開示はされていないが、警察には記録が残っているはずだが、何の情報も得られないままだ。

「職業でジャーナリストをしていれば、何か掴めると思っていたんだけど。今回はヤバい事になっちゃったわね」