真吏をマンションに送り届けたアキラルは、その足で喫茶店のドアを潜る。
ドアには『CLOSE』の文字がかけられていたが、それは無視だ。
カウンター以外は照明を落とした店内には食欲をそそる香ばしい匂いが充満している。
何かを調理中のようだ。
奥の厨房から喫茶店経営者の志鳥(しどり)が、カウンター越しに姿を見せる。

「戻ったか。お疲れ」

志鳥は彼が訪れることはわかっていたようだ。
声をかけたが青年は無言である。
ポケットに手を突っ込みカウンターに先ほど拾った知能チップと、ちぎれた腕を置いた。

「高竹真吏を襲った、ヒューマノイドの頭脳チップ。ボディは腕だけだ」

アキラルはカウンターの椅子に腰を下ろす。

「粉砕された。チップを抜き取るとそうなる仕組みだったようだ」

志鳥は顎を撫でる。

「オリジナルの複製品(レプリカ)なんだろうが。凝っているな」

チップを胸ポケットに入れ、腕を手に取るとしげしげと眺める。
この店自体が一定の電波を遮断するように出来ているが、服の素材もそれらを出さないようになっている。
アキラルの服も同じだった。

「最近のバーナ社は手抜き素材が多いからな。低コストになりすぎてるんだ。だから、そうやってすぐに証拠隠滅をはかれるんだが。こいつは……?」

志鳥は首を傾げ呟きながら、厨房に入って行くいく。
次には熱々のハンバーグをステーキ皿に乗せ運んできた。
他にコーンと人参のソテー、ブロッコリーやポテトと野菜が添えてある。
他にスープとライス、サラダをアキラルの前に置く。

「腹減っただろう。食えよ」

青年は頷きフォークとナイフを使い、夜食を口に運ぶ。

鷹人(たかひと)。おまえがヒューマノイド専門の護衛業を始めて二年になるがな。いつでも辞めていいんだぞ」

青年は無言で食事を続けている。
志鳥の言葉を拒否しているのだろう。
義理の父親でもあり喫茶店の主でもある志鳥は、軽くため息をついた。

「ところで依頼人、なかなか肝の座ったお嬢さんだったろう」

青年が黙々と料理を胃袋に納めていく様を眺めながら志鳥は(たず)ねる。

「おまえも二十歳過ぎているんだ。女友達や彼女を連れてきても、いいんだぞ」
「志鳥さんが結婚したら考える」

志鳥は苦笑し、鷹人は黙々と夜食を口に運んでいる。