朝霧は続ける。

「知能チップも回収されている。取り出された後も微弱電波を発するはずなのに、それもない。遮断される環境があるんだろう」

朝霧の言葉に勝部は止まらない冷や汗を、ハンカチで拭う。

「あのヒューマノイドは、渕脇(ふちわき)の研究所から持ち出したものだ。破壊されたなどと知られたら」

渕脇とは渕脇忠行(ふちわき ただゆき)のことで、バーナ重工株式会社の現在の取締役社長をしている男だ。
彼らは同級生で、それぞれの道を進んだが交流はある。

だが、いくら友人とはいえ企業商品を易々と貸し出したりはしない。
朝霧と勝部は渕脇を不支持とする社員を買収し、外部へ持ち出す事に成功した。

多額の報酬を受け取り社員は行方をくらまし、社内も身代わりのヒューマノイドが偽物であることにも、そろそろ気づく頃だ。
バーナ重工から流出したヒューマノイドは三体。

「だから反対だったんだ。あれ以外のヒューマノイドを使えば良かった。どうすればいいんだ……!」

勝部が薄くなりかけの頭を抱える。

「あの女さえ消えれば、それでいい」

朝霧が悪辣な笑みを浮かべ、気弱な同級生の肩を叩く。

「機会はまだある。終わったわけじゃない。次にどうにかすればいい」

朝霧を動かした視線の先には、真吏を襲ったあのヒューマノイドと同じ姿の物が二体並んでいる。

「好きにはさせんよ。悪は倒れるべきだ」
「だ、だが!もうこのヒューマノイドは、あとの二体は起動させないでくれ。警察の……」
「わかった」

バーナ重工業の機密ヒューマノイドが、どれだけ有能なのか。
朝霧は高竹真吏を襲わせて性能がどれほどの物か効果を見たかったのだが……。

「いや。ヒューマノイドは確かだ。その護衛屋とやらが邪魔だな」

朝霧は声には出さずに呟いた。