株主会社『バーナ・メンテナンス』。
ヒューマノイドの修理工場である。
日本でも屈指の財閥『バーナ重工株式会社』傘下の修理工場で全国に展開しており、T都郊外にあるそこはバーナ社製のヒューマノイドの修理を一手に引き受けている。
バーナ重工株式会社は家庭用ヒューマノイドの他、軍事用にも開発販売を行っている。
戦後、板金屋として始まり物作りの会社となり、後の有限会社兜賀(とうが)鉄工所となり吸収合併を繰り返し、今の形となった。
I県には研究学園都市があるが、そこにバーナ研究所を構えており、新しいヒューマノイドの開発を探求している。
そしてここは全国に散らばる家庭用ヒューマノイドの修理工場である。
就業時間は過ぎていて、工場は稼働していない。
その工場の一角である。
「あの女、どころかのチンピラを雇ったようだな」
その社長室には二人の男がいた。
一人は軽装に身を包んだ男。
もう一人は作業着の繋ぎを着た、恰幅の良い男だ。
共に五十代前後の年齢である。
「本当に大丈夫なのか?ヒューマノイドは二十年前の暴走以来、外を歩かせることは禁止されているのに」
肉付きの良い男は不安げに口を開く。
大きい外見とは違い気弱そうで、どこかおどおどしているが、この修理工場の会社社長である。
名前は勝部晴久(かつべ はるひさ)という。
二十年前。
進化したAIの暴走により人質事件が起きた。
人質は子供と妊婦を含めた五人だ。
後に軍と機動隊により制圧され人質は救出、AIは完膚なきまで破壊された。
この事件以降、AIは完全に人間の支配下に置かれ管理されている。
「心配はいらんよ。ヒューマノイドの記録は残らんように細工してあるはずだ」
そしてこの男は今は私服だが警察署の署長だ。
痩せ形のカマキリのような男で名前は朝霧修二(あさぎり しゅうじ)。
自信ありげな言葉に勝部社長は少なからず安堵したようである。
その時、朝霧の表情が変わる。
耳に仕込んだハンズフリー電話で、ある報告を訊いたからだ。
「ジャーナリストを襲わせたヒューマノイドだが、一体は破壊されたそうだ」
勝部は気の弱そうな顔を青くさせた。
冷や汗を流す。
「ば、ばかな!あのヒューマノイドは実用性、機能性共に最高ランクの物だ。軍隊も制圧できる性能を持っているんだぞ」
「アキラルだ」
「アキラル?」
朝霧署長は頷いた。
「フリーの護衛屋だと名乗っているらしいが……要はただのチンピラだ。素性は不明。一人で隠し通して仕事をするなど不可能だ。協力者がいるんだろう」