「アキラルをあまり信用しない方がいいぞ。いつ裏切るかわからんからな」

ヒドこと秀道が嘲笑う。

「あいつは人間に見えるが人間じゃない」
「なによそれ。まさかヒューマノイドなの?」
「ヒューマノイドの方がマシかもしれないぜ」

秀道が膝の上で指を組む。

「まあ何にしても、そのアキラルという護衛人は存在するのよね?無駄足にならないことだけを信じるわ」

真吏は椅子から立ち上がるとコーヒー代金を置き店から帰っていく。

「おや、お嬢さんは帰ったのか」

真吏の姿が遠ざかるころ、店のマスターがコップを乗せたトレーを運んできた。
ガラスコップの淵に四つ切りにしたレモンが添えてあり、透明な液体の泡が涼しげ弾けている。

だが今は大寒という二十四節気のひとつの指標期間であり、寒さが最も厳しくなる季節だ。
季節先取りにしても早い気がするが、少年はストローを刺すと嬉しそうに飲んでいる。

「うまい」
「腹壊すぞ。この寒空に」
「いいんだよ。どうせ身体は有道が使ってるからな」

秀道は毒ある上にへそ曲がりな性格の持ち主のようだ。

「依頼人の話を訊いたな。あのお嬢さんの護衛、引き受けてやってくれ」

店内に戻った志鳥がカウンター席に腰かけていた人物に声をかける。