「劇甘キャラメルラテは絶品だなあ」

真吏の不安など全く他人事である。
幸せそうに呟く姿を見て、彼女は無性に腹が立ってきた。
頭髪は白で瞳が紫。
カラーコンタクトレンズだろうか。
若者の当たり前のファッションであるが、社会人の中でも固い真吏から見れば、それだけでもふざけている。

脳内で色とりどりの花々が咲き乱れているらしい、この平和な少年の頭を小突きながら説教してやりたい気分だ。

真吏は決して『S男』などという輩には、扱い切れないタイプの女性である事は間違いない。

「自分より弱くて自分に都合よく、自分の言いなりにしかならない人間の相手しか出来ない、腑抜け男」

と、口にはしないが軽蔑している。
しかし少年のような、どこか掴みにくい人間も苦手だった。

「確認するけど、高竹さんは恨まれてるんだよね。ものすごく」

自分への性格の評価を知ってか知らずか、少年が再び口を開く。

「そうよ。だから守って欲しいの」

真吏は今にもここから離れたかったが、そうも行かない。

「警察は?」
「警察は当てにならないわ。だって警察の不祥事の記事だもの」

少年は頷く。

「わかった。アキラルには、そう伝えておくよ」
「アキラル?」
「高竹さんを護衛してくれる人の仮名。コードネームと云えばいいかな」

少年は笑顔でごちそうさま、と続ける。

「あとは何かある?護衛だけで解決できそう?」
「そうねえ。この事件の証拠というか。目撃者情報でも、なんでもあればいいんだけれど。護衛とは関係ないか」

護衛はあくまでも自分の安全確保である。
それだけで事件の本質はどうにもならない。
自分は警察ではない。
真吏はため息をついた。