………月と星々が宝石のように美しく輝き、黒い絨毯のような夜空を美しく装飾していた夜である。
冷たく清々しい、黒く澄み渡った夜空の下を高竹真吏(たかたけ まり)は、いつものように雑誌社での仕事を終え、帰宅途中であった。

身長一七二センチ。
スラリとした体躯の二十七歳の女性である。

白い息を吐きながら歩く真吏はベージュ系のロングコートをまとい、中には黒いパンツスーツを身につけパンプスを履いており、背の高い真吏によく似合っていた。
髪は落ち着いた茶色で「上の中」と評される顔立ちに、派手にならない程度の化粧を施している。

二十五才を過ぎてからは自宅エステをすることを唯一の楽しみとしており、この仕事が一段落したら、またゆっくり自宅スパをしたいと真吏は考えていた。

コンビニで夜食に購入したノンアルコール飲料とおでんの入った袋を持ち、片手に書類やデータカードの入ったファイルをカバンに入れて抱えている。

駅から彼女の自宅マンションに到着するまで信号が三つあるが、それらを過ぎてあと五分程の距離まで近づいた時だ。

「!」

真吏は空気を切る何かを感じ咄嗟(とっさ)に横へ飛んだ。
自分が歩いていた道を見ると手裏剣(しゅりけん)のような物が、道路に突き刺さっている。

それを見てから再び緊張気味に正面に顔を向けた。
正面の街灯の暗がりに、こちらに歩いてくる人影が見えたからだ。