帰り際…。
神崎家の玄関先で、祐介が一慶に話し掛けた。

「薙を宜しく頼むよ、カズ。遥もね。」

 祐介は、瑠威の治療計画を立てる為、暫し神崎邸に残る事になった。一慶が、親指でボクを示しながら答える。

「こいつの心配は無用だ。不屈のマングースだからな。それより、お前こそ諸々頼んだぜ。瑠威の『医者嫌い』が治るかどうかの瀬戸際だからな。」

「解っている。気を付けるよ。」

 一足先に帰途に着くボク等を、何処か気遣わしげに見送る祐介。そんな彼に、遥はご機嫌な調子で言う。

「大丈夫、大丈夫!祐ちゃんは、心置き無く瑠威の治療に専念してあげて。薙の面倒は、俺に任せて良いからね!」

「…それが一番心配なんだけどね。」

 苦笑を浮かべる祐介。
はしゃぐ遥の後ろ姿を、溜め息混じりに見詰めている。

「薙。」

 踵|《きびす》を返したところで、不意に、祐介に呼び止められた。『おいで』とヒラヒラ手招きされて、ボクは思わず首を傾げる。

「何?」

小走りで駆け寄ると、祐介がグイと顔を近付けて来た。綺麗な顔が間近に迫り、思わず息を飲む。

「あの…何か用??」
「ん、ちょっとね。気になって。」

 …そう言うと。
スイと右手を掲げて、ボクの額に翳す。
その指先に、ポゥッと蒼い光が灯った。

「癒霊するの?」

「そうだよ。今日は長丁場だったし、キミは酷く疲れている。体は平気そうだけど、魂魄は擦り傷だらけだ。」

 気遣わしげな表情は、ボクに向き合った瞬間、一層深く悩ましくなった。祐介が、ボクを心配している。

「さっきも、倒れそうになっていたよね?? カズに支えられただろう?」

「見ていたの?」

「見えたの。あんなに仲睦まじい姿を見せ付けられたら、僕も冷静じゃいられない。この僕を嫉妬させる女性なんて、キミくらいだよ。」

 …そう来たか。

そんな恥ずかしい台詞を、よく臆面も無く云えるものだと感心する。ボクは、顔を火照らせたまま、必死に反論の言葉を捻り出した。

「勘繰り過ぎだよ。ボクは、そんな…一慶と、特別に仲睦まじいって訳じゃ…」

「それなら、僕にも、あんな風に甘えてみせて?」

「いや、だから!別に甘えてなんか…っ」