「この構え…」

 目敏《めざと》く察した祐介の呟きが、聞こえる。

…彼には解っているのだ、次にボクが繰り出す一手が。

 ボクは軽く目を閉じた。

ゆっくりと呼吸を整え、心を澄ませる。

手の中に感じる、刀剣の重み…。

柄(ツカ)に巻かれた皮帯(かわおび)と、冷たい鍔(ツバ)の感触が、肌に直接伝わってくる。

 真剣は重い…。
自在に振るうにはコツが要る。
だからこそ、『自分の体の一部だと思え』と、親父は教えてくれた。

 ボクは──遠い日の、親父との遣り取りを思い出していた。

初めて真剣を手にしたのは、小学五年生の夏だった。木刀の感触に慣れていたボクにとって、真剣は憧れでもあったが、同時に恐ろしくもあった。

そんなボクに、親父は言ったのだ。

『いいか、薙?真剣は、竹刀や木刀とは訳が違う。人を確実に殺す為に造られた武器だ。だから重い…これは、命を奪う者の《罪の重さ》なんだ。』

 それを聞いたボクは、一瞬、刀を持つ事を躊躇(ためら)った。

剣を帯びる事への、本能的な怖れ──。
刃《やいば》に籠《こ》もる真義を理解するには、ボクは、あまりに幼過ぎた。

 それを見て取った親父は、ボクに優しく微笑んで、こう言った。