「はい。アイツの…死の直前の事です。僕と玲一、庸一郎の三人が病室の枕元に呼ばれましてね。その時、初めて聞かされました。…アイツに、貴女という『娘』がいることを。」

 驚きのあまり、声も出なかった。

ボクの存在を隠し続けた親父が、死の間際になって、真実を打ち明けていたなんて…。

 右京は更に続ける。

「──伸之はね。生前、貴女をこう表現した。『俺の娘は天子だ』…と」

「ボクが神子である事までも、明かしていたんですか?」

「いえ。奴も、はっきりと肯定はしませんでした。だが我々は、そうである可能性が高いと判断した。そしてアイツは、こうも言ったんです。俺の娘は、一人も多くの命を救う為に『あらゆる道』を選ぶ。だから、彼女が選んだものを理解し受け止め、大切に守ってやってくれ…と。」

 親父が、そんな事を?

まるで、ボクが今何を考え、何を願っているのか…全て予想していたみたいだ。

 驚愕するボクに微笑み掛けて、玲一が話を引き継ぐ。

「…伸之は言いました。貴女が何を選ぶとしても、それこそが、仏の導きだと。喩(タト)え貴女が、首座に就かなくても…それは御仏(ミホトケ)が、天子を必要としない平安な世を保障したのだと思えば良い。仏は、必要なものだけを世に遣(ツカ)わすのだと…そう言ったんです。」

「正直、実物の貴女を見るまでは、信じられないと思っていました。」

不意に、庸一郎が口を挟んだ。

    「…貴女に会ってからも、天子たるに相応しい『選択』を、こんな若い娘が下せるものかと疑う場面も多々あった。…だが今。鈴掛の《蛇霊遣い》に救いを施す貴女を見て、確信を得ました。貴女こそ、真に神子たる方だ。我々は、数百年に一度の宝を得た。」

「庸一郎さん…」

 庸一郎は、ボクに柔らかな微笑を投げて言った。

「ですから、首座さま。貴女は、ご自分が望む道をお行きなさい。反発する者も在るでしょうが…いつかきっと理解が得られるでしょう。貴女の選択は、一座にとっての『託宣』なのだから。」

 彼が、そう締め括ると、一同から割れんばかりの拍手が湧き起こった。裏も表も…一座の皆が、にこやかに笑ってボクを見詰めている。

 この瞬間。
ボクは、真に《首座》として認められたのだと実感した。