甲本家は、代々続く行者の一族だ。
その起源は古く、平安時代にまで遡る。

障りや祟り。悪霊やら物の怪やらを、鎮めたり浄めたり、封印したり…時には、消し去ったりするのだと云う。

『所謂(イワユ)る霊媒師か?』と訊ねたら、透かさず一慶に小突かれた。…どうやら、その類の連中とは、混同されたくないらしい。

 『次元が違う』と一慶は云う。

それには、苺も同意した。
行者とは、仏道を極めんとする修行者全般を云うらしい。

出家の僧侶や、役小角(エンノオヅヌ)を祖とする山岳信仰の修行者などを示しているが…中には、出家しない修行僧も在る。

在家僧(ザイケソウ)と云われる者だが、甲本家は、これに該当するのだそうだ。

 剃髪せず、世俗に在って、普段は肉食も許されているが──いざ法術を行う時は、出家僧宛(サナガ)らの厳しい戒律に縛られる。

 修行に依って研かれた驚異的な行力。

魔を伏せる効験のあらたかさは絶大で、出家をも凌ぐと言われていた。

 真言密教から派生した独自の霊流──。

その圧倒的な行神力は、やがて時代(トキ)の帝に召される事により、仏法と僧侶を護る守護者の一派として確立した。

「…それが甲本家の家業!?」

「ま、そういうこった。要は、天皇直下の行者衆よ。そんじょそこらの坊さんとは、訳が違うんだ。」

「へぇ…」

 ──おっちゃんの言う様に、甲本家は、少し特別だった。陰陽師の様に宮中に仕えるのではなく、天皇の庇護を承けた真言宗の寺に帰属し、仕えていたらしい。

なので、表向きは、寺の僧侶と変わらない。官民問わず依頼を受けて、怪異を除いたり、厄災を浄めたり、悪霊を伏せたりする。

 そうして時には、お主上の勅命を承けて、事件の調査も担当する。

つまり、天皇お墨付きの密偵も兼ねているのだ。

 それ故、その存在は未だに秘密とされている…又。世襲制を重んじる事で、常に強い行力が保たれていると云う。