一部始終を見届けた後。
鷹取が、感心した様にボクを見上げて唸った。

「…成程。《魂喰らい》の眷属霊ですか。考えましたね。眷属霊が狐霊を飲んでしまえば、以後は、完全に貴女の支配下に置ける。この稲綱は、貴女と真織の《共有霊》になったのですね?」

「うん、そう。テンは稲綱狐のボスになった。これでもう好き勝手はさせない。」

「恐れ入りました。」

 そう言って、彼は俄(ニワ)かに平服する。
この一言を機に、他の裁定者達から賛嘆の声が挙がった。ホッとするボクに、一慶が話し掛ける。

「第一段階はクリアだな。」
「うん。良かったよ、上手くいって。」

「いよいよ《分霊》だ。早くしないと、真織の身が持たない。」

 …見れば、確かに。
《狐》を抜かれた真織の顔には、激しい疲労の色が浮かんで見えた。

長く寄生していた憑き物が落ちて、精神のバランスが崩れたのだ。急がなければならない。

「落ち着いて、薙。練習通りにすれば良い。今のキミなら、きっと上手くいく。」

「うん。」

 祐介の励ましに気持ちを入れ換えると、ボクは一同を見渡して言った。

「これから真織の魂魄を《分霊》します。皆さんには、その立会人になって頂く。真織が、確かにボクの塊儡(クグツ)になった事を見届け、証明して欲しい。」

 そうする事で、一座に於ける彼の立場も少しは変わって来る筈だ。

首座直属の部下ともなれば、一座の幹部達も、ボクの許可無く彼を糾弾する事は出来なくなる。

《狐霊遣い》に対する根深い偏見も、徐々に改善へ向かうだろう。

 その代わり、失敗は出来ない。
何が何でも《分霊》を成功させ、必ず真織に罪を償わせなくては。