それにしても…なんて大きな屋敷だろう。
自然石を組み合わせた玄関の三和土(タタキ)は、ゆうに六畳程もある。天井は、古木を組んだ梁が交差する重厚な造りだ。

 目が馴れるのを待って靴を脱ぎ、框を上がると、白壇の薫りが一段と強くなる。

三つの棟を繋ぐ長い回廊。
新緑を湛えた中庭。
外観からは解らなかったが、邸内は襖と障子で仕切られた書院造りになっていた。二つの建築様式を巧みに取り入れた、独特の間取りだと云える。

 それから、大小幾つもの和室を通り過ぎて…ボク等は漸く、目的の広間に辿り着いた。

「さ、入れ入れ!」

 おっちゃんがボクの背を押す。
そこは、襖を取り払った四十畳間だった。

 青い畳の海。藺草(イグサ)の薫り。
空調も無いのに、どうしてこんなに涼しいのだろう?
だだっ広いが、不思議と気持ちが安らぐ。

 綺麗な和室だった。
精緻に描かれた天井画が美しい。
開け放たれた障子に映り込む竹林の影。
軒先に揺れる南部風鈴。

床の間に飾られた菖蒲の掛軸が、細やかな涼を呼んでいる。

 きっと名のある陶工の作なのだろう。
見事な細工を施した香炉から、白壇の薫りが馥郁と漂っていた。

 優雅な和の設えに見蕩れていると、外から爽やかな風が吹き込んで来る。思わず巡らせた視線の先には、美しい中庭が広がっていた。

その中央で青々と葉をそよがせる大木には、見覚えがある。開花したばかりの白く可憐な花が、葉蔭から控え目に顔を覗かせていた。