真織は、言う。
「貴女の力が、強くなればなる程、精神的な防護壁が厚くなり…やがて、記憶の一部を『消し去る』という仕組みになっています。…こんなに緻密に、精神と力を編み込んだ《封印》を見たのは、私も久し振りだ。」
──と、不意に。
端正なその顔から、微笑みが消える。
「あれは、《忘却術》と云うんです。」
「え?」
「先代が貴女に仕込んだのは、唯の封印じゃない。《忘却術》です。何故そこまでして、貴女の力を抑制する必要があったのでしょうね?何か、お心当たりがおありですか?」
──心当たり。
それなら無い事もない。
親父がボクの『力』を抑制し、忘れさせたかった理由があったとしたら。多分、それは…
「抜け道。」
「え?」
「親父はボクに、抜け道を用意して逝ったんだ。万が一ボクが、当主になる事を拒んだ場合に備えて。」
「成程、抜け道…ですか。」
「うん。平凡な人生を選んだボクにとって、行者の才能や力は無用の長物だ。況してや金目の力なんて…日常生活を送る上では、却って障害になってしまう。だから、ボクの力が表面化する前に、それを相殺する『術』を施した。それが、貴方の仰有(オッシャ)る《忘却術》なんじゃないでしょうか?親父は…ボクの人生に、もう一つの可能性を遺してくれたんだと思います。」
ボクの言葉に、皆が静かに耳を傾けていた。真織は、紅茶を一口含んでから言う。
「…ご慧眼、恐れ入りました。貴女は、冷静に現状を把握しておられる様だ。神子である以前に、貴女には稀なる才能を感じますね。」
「そんな…ご慧眼という程の事では…」
「いいえ。貴女には、人の心の内側を察する才能がありますよ。術など遣わなくてもね。ですからどうか、そう御謙遜なさらずに。貴女は、とても聡明で魅力的な方です。」
「…ぁ…う…。」
誉められてしまった─…。
それも『名医』と呼ばれている人に。
そう、あからさまに持ち上げられると、恥ずかしくて身の置き所が無い。
狼狽え、さ迷いわせた視線の先に、祐介が意味深な眼差しで笑いを堪えている姿が見えたので、ボクは気まずく咳払いをした。
『キミは誉められるのが苦手だよね?』
…そう言われた事を、ふと思い出す。
そういう自分に『慣れなきゃいけない』と、祐介は言ったけれど、やはりボクには難しいと思った。
「貴女の力が、強くなればなる程、精神的な防護壁が厚くなり…やがて、記憶の一部を『消し去る』という仕組みになっています。…こんなに緻密に、精神と力を編み込んだ《封印》を見たのは、私も久し振りだ。」
──と、不意に。
端正なその顔から、微笑みが消える。
「あれは、《忘却術》と云うんです。」
「え?」
「先代が貴女に仕込んだのは、唯の封印じゃない。《忘却術》です。何故そこまでして、貴女の力を抑制する必要があったのでしょうね?何か、お心当たりがおありですか?」
──心当たり。
それなら無い事もない。
親父がボクの『力』を抑制し、忘れさせたかった理由があったとしたら。多分、それは…
「抜け道。」
「え?」
「親父はボクに、抜け道を用意して逝ったんだ。万が一ボクが、当主になる事を拒んだ場合に備えて。」
「成程、抜け道…ですか。」
「うん。平凡な人生を選んだボクにとって、行者の才能や力は無用の長物だ。況してや金目の力なんて…日常生活を送る上では、却って障害になってしまう。だから、ボクの力が表面化する前に、それを相殺する『術』を施した。それが、貴方の仰有(オッシャ)る《忘却術》なんじゃないでしょうか?親父は…ボクの人生に、もう一つの可能性を遺してくれたんだと思います。」
ボクの言葉に、皆が静かに耳を傾けていた。真織は、紅茶を一口含んでから言う。
「…ご慧眼、恐れ入りました。貴女は、冷静に現状を把握しておられる様だ。神子である以前に、貴女には稀なる才能を感じますね。」
「そんな…ご慧眼という程の事では…」
「いいえ。貴女には、人の心の内側を察する才能がありますよ。術など遣わなくてもね。ですからどうか、そう御謙遜なさらずに。貴女は、とても聡明で魅力的な方です。」
「…ぁ…う…。」
誉められてしまった─…。
それも『名医』と呼ばれている人に。
そう、あからさまに持ち上げられると、恥ずかしくて身の置き所が無い。
狼狽え、さ迷いわせた視線の先に、祐介が意味深な眼差しで笑いを堪えている姿が見えたので、ボクは気まずく咳払いをした。
『キミは誉められるのが苦手だよね?』
…そう言われた事を、ふと思い出す。
そういう自分に『慣れなきゃいけない』と、祐介は言ったけれど、やはりボクには難しいと思った。