「ごめんごめん。そんなに怒らないで。一杯ご馳走するから。」

「一杯って…。祐介、一人で呑んでいたの?中庭で?? 皆は?宴会はどうなったの?」

「さっき、お開きになったよ。珍しく苺が潰れちゃってね。」

 苺が?
沙耶さんと呑み比べをしていた苺が…

「潰れちゃったの!?」

「普段は、あんな呑み方はしないんだけれどね。今日は、ちょっと──いや。かなりムキになっていたみたいだ。まさか苺が、こんなに早く潰れるとは思わなかったよ。あの子にしては珍しいかな?」

 そう言って、祐介はクスクス笑うけれど…だっ大丈夫なのかな、苺?

「あぁ。あの子なら、心配は要らないよ。明日になれば、案外ケロッとしているから。勿論、沙耶さんもね。」

「…結局、苺が負けちゃったの?」

「いや。沙耶さんも潰れたから、今夜のところは引き分けかな?二人とも、やけにペースが早かった。興奮していたんだろうね。」

 言い終わるや否や…。
祐介は、何やら含みのある笑みを履いた。

「みんな、浮かれているんだよ。キミが来てくれたから。」

「──え?ボク?」
「そう、キミがね。」

 溜め息が出そうな極上の笑みを浮かべて、祐介が頷く。

…だけど。ボクには良く解らなかった。
皆、何をそんなに浮かれているのだろう?

 頻りに小首を傾げていると、祐介がボクの頭にポンと手を置いた。

「まぁ良いじゃない。その内に解るよ。」

 そう言うと。
彼は、徐ろに板戸を滑らせ戸袋に仕舞い始めた。全ての作業が済むと、大きな留め金で、確(シッカ)りと固定する。

「今夜は、こうして開けて措こう。いつもは就寝時になると、宿直(トノイ)の護法が来て閉めてしまうんだ。開けて措くように命じた筈なんだが…巧く伝わっていなかったんだね。」

「どうして、いつもは閉めちゃうの?」
「不法侵入の防止策だよ。」
「ふぅん、厳重なんだね…。」

「この先は、甲本家のプライベート・スペースだからね。余計なモノ達が入り込まないように、『物理的な結界』を張っているんだ。」

 …余計なモノとは…何だ?
やはり、霊とか妖怪の類だろうか?

何度聞いても慣れない世界だ。
苦手だな、その手の話は。