「お母さーん!」

大きな声で呼んでも、返事はない。

空耳だったのかと思いながら、また家に戻った。


きっと母親は、迎えに来る。

それから僕は毎日、玄関の前で、母親を待ち続けた。

雨の日も、風の日も。


でも母親は、迎えに来なかった。

僕は、母親に捨てられたのだと、確信した。


しばらくは、僕の部屋で泣いて暮らしていたが、それも半年で落ち着いた。

そして1年くらい経った頃、僕はある想いに駆られた。

一目でいいから、母親に会いたい。


ある日僕は、祖父母の家を出て、母親が消えて行った道を、歩き始めた。

その道は林を超え、隣町に続いていた。

母親はきっと、この町にいる。

僕はそう感じて、隣町まで降りて行った。


でも、隣町のどこに住んでいるのか、分からない。