小さくえっ……という声が聞こえた。

「和弥?」

「はい。和弥です。」

もう一方の手が伸びて来て、僕の両頬を包んだ。

「本当に和弥なの?」

「はい。お母さん。」

その両手が、震えていた。

「ああ、本当に和弥なんだね。」


僕はそのまま、お母さんの胸の中に、顔を沈めた。

「お母さん……」

「和弥、もう泣かなくていいんだよ。」


ずっとずっと知らなかったんだ。

お母さんが、そんなに僕の事を想ってくれていたなんて。


すると窓の外から、桜の花びらが入ってきた。

「ああ、お母さん。桜の花びらですよ。」

お母さんは、手に平に花びらを乗せると笑った。


「桜散る前に、会えてよかった。」

僕は力強く、お母さんの手を握りしめた。