幼い頃の記憶と言えば、まず最初に思い出すのが、母と祖父母と暮らしていた頃だ。

父は、僕が幼い頃に死んで、母と二人。

父方の祖父母の家に、そのまま住まわせて貰っていた。


僕が小学生になると、祖父母は母に、再婚を勧めた。

「何も、この家に囚われる事はないんだよ。」

だが母の答えは、こうだった。

「その気はありません。」

僕はそんな母が、いまも父と一緒にいるようで、嬉しかったのを覚えている。

学校の友達でも、父親が再婚して新しい母親ができたけれど、上手くいっていないと言う話を、聞いた事があるからだ。

僕は、いつまでも父と母と一緒。

そんな事を思っていた。


その内、当てにしていた父の遺産も減ってきて、母は働きに出た。

役所での仕事だった。