「加恵。」

でも悟志さんが、放してくれません。

「加恵、加恵!」

少しでも前に進もうとする私を、悟志さんは抱きしめてこう言いました。

「和弥君をあの家に置いていくように言ったのは、お義父さんなんだ。」

「えっ……」

結婚を誰よりも喜んでくれた、あのお義父さんが!?

「高坂の家の、たった一人の、跡取りだからと言われて。」

私は、地面にある砂を掴みました。


和弥を取られたくない。

でも、高坂の家に受けた恩を思えば、和弥を置いていくしかない。

悔しくて、悲しくて、胸が引き裂かれるようでした。


「和弥……和弥……」

何度も何度も名前を呼んで、私の顔は涙でグチャグチャでした。

こんな涙に濡れた嫁、伊賀の家ではさぞ驚いたでしょう。