「昔話?」

「生い立ちだよ、和弥の。」

彩は、きょとんとしていた。

「そう言えば、聞いた事なかったわ。和弥さんの事知っているのは、医学校の時からよ。」

「へえ、そうなんだ。秘密主義なのか?和弥。」

「そう言う訳じゃないよ。」

僕は、彩が作ってくれたお弁当を、食べ始めた。

彩の手料理は、いつも美味かった。

僕が彩と結婚したいと思った理由の、一つだ。


「なあ、教えろよ。」

司が、急にせがんできた。

「いいわね。話して。」

彩も司の話に乗った。

「あまり、いい話でもないよ。」

そう前置きして、僕はまた、窓の外の桜を見た。


そうだ、あの時もちょうど、桜が咲いている時だったっけ。


「そうだな。どこ辺りから話し始めれば、いいかな。」

僕は、お弁当を食べながら、記憶の糸を辿っていた。