「ありがとうございます。」

「ああ、頼むよ。」

そして僕が、病室に入ろうとした時だ。

見覚えのある人が、目に包帯をしていた。


僕は驚いて、廊下の壁に隠れた。

まさか、司の言っている患者って、その人じゃないだろうな。

ドキドキしながら、司を見ると、やはりその患者に寄って行く。


「どうですか?伊賀さん、目の調子は。」

「ええ。お陰様で少し痛みますけど、調子はいいです。」

この声。

そして、伊賀と言う名字。

まさか、まさか……

いや。いくら何だって、そんな事ある訳ないと、自分に言い聞かせた。


「今日は、桜が綺麗ですね。明日には見えるといいですね。」

司が言うと、その人は見えるはずのない、外を眺めた。

「そう言えば、あの時も桜が咲いていたわ。」

その人は、ぽつりぽつりと昔の事を、話し始めた。