「ところで、一つ確認しておきたいんだが。」

「ああ。」

「君は、一人息子ではないのか?」

僕は、窓の外に立っている、一本の桜の木を見た。

その木は一本だけで、太く長く、そして優しく生きている。


「そうだったかな。忘れていたよ。」

「何だよ、それ。」

そういう司も、ある病院の一人息子だと言っていた。

司も彩を好きだった事があったが、彩もこの病院の跡取り娘だと知り、諦めたといつか言っていた。

「なまじ、自分の人生を振り返るのは、ちょっと苦手な性分でね。」

小さい頃から、医者になりたい訳ではなかった。

ただ懸命に勉強していたら、こうなっていたと言う方が、正しかった。


「そう言われてみれば、和弥から昔の話を、聞いた事がないな。」