祖父母宅に行くのか。

ふと、別れて来た祖父母の顔を思い出した。

僕は祖父母の家で育ったけれど、離れて暮らす祖父母に会うと言うのは、どんな気持ちなんだろうと、この兄妹と同じ事を思うようになった。

きっと、離れていた時の事を、忙しく話すに違いない。

そんな事を思って、僕はその兄妹に気づかれないように、微笑んだ。


その時だった。

妹が、電車の窓を開けた。

「お母さん。じゃあ、行ってくるね。」

「気を付けてね。」

聞き覚えのある声に、僕はそっと窓の外を見た。


やっぱりだった。

一番会いたくない、母親がそこにいたのだ。

なぜ?どうして?

こんな近くに来るなんて、こんな事があるのか。

そんな事を思いながら、帽子を深めに被った。