記憶が酷く曖昧で、瞳を開けたらいつの間にかここにいて、知らない世界がそこにはあった。自分の記憶にはない世界が。



雨の匂いが染み込んだレンガの路、黄昏色の建物、林檎の木々、黄昏の薔薇ーーどれも見慣れない風景だ。



少年の中には何一つ確かなものが存在しない。



動揺することもなく、置かれた状況に関心すら抱かず、空虚だった。何もかもどうでもよかったのかもしれない。あのまま死んでしまっていても。