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学校を終えて帰宅すると、いつものように玄関で迎えてくれた猫のツキが「ニャア」と鳴いた。
「ただいま、ツキ」
大切な家族のツキは、黒目がちの瞳に薄茶色の毛並みの男の子。
三年前の九月のある夜、塾の帰りに通り掛かった近所の公園で小汚い段ボール箱に入れて捨てられていたところを偶然見つけ、どうしても放っておけなくて連れて帰って来てしまったのだ。
ツキを一目見た両親には予想通り猛反対されたけど、金銭面以外の面倒をすべて自分で見ることを条件に飼うことを許してもらえた。
正直、最初はどれだけ頼み込んでも無駄かもしれないと思っていたから、両親が許可を出してくれた時は心底驚いた。
物心ついた時からわがままを言うことがほとんどなかった私が引き下がらなかったからなのか、それとも普段は家でひとりで過ごすことが多い私に少なからず同情したのか……。
考えられる理由はそれくらいだったけど、もし両親に許可をもらえなかったとしても、きっと私にはツキを元の場所に戻して来ることなんてできなかったと思う。
だって……。
段ボール箱の隅で体を丸めながら警戒心を剥き出しにしていたツキに、当時いつもひとりぼっちだった自分自身の姿を重ねてしまったから──。