「そんなことないよ。でも、ごめんね。私、そろそろ帰らなきゃいけないから……」


暗に『終わりにしよう』と告げたつもりで、広げていた教科書や問題集を閉じて筆記用具とともにバッグに片付け始めたけど……。


「ねぇねぇ、ここわかんないんだけど」


そんな私のことなんてお構いなしで、別の女子がそう口にした。


「え? あ、ごめんね。私、もう──」


「まだいいじゃん! 松浦さん、あと十分は大丈夫なんでしょ?」


たしかに、私は『十七時前まで』と言っていたし、時計はその十分前を指している。


「ここなんだけどさぁ」


だけど、指差された問題はほんの数分前に教えたばかりのもので、さすがに付き合い切れないと思ってしまった。


「そこ、さっきも教えたよ? っていうか、今日はずっとそれと同じパターンの問題しかやってないから、やり方は全部同じだよ」


自分でなんとかしてよ、と言いたかったのはさすがに飲み込んだけど……。


「……あ、そう。じゃあ、もういいや」


質問して来た女子の声がワントーン低くなったことに気づき、ハッとして四人の顔を見た。


一瞬だけ時間が止まったように感じたけど、彼女たちはすぐに笑っていた。


この時は、たしかに笑っていたはずだった。