「ああ、廉くんっ」
校門をくぐる直前、宮原の声がした。
慌ただしい足音が続く。
右肩を叩かれ、声を漏らす。
痛む右肩を押さえた。
「いやあ、無事でよかったよ。入野さん昨日、なんの用だった?」
「ああ。探し物に付き合ってくれと」
宮原は少しの間おれの目を見たあと、「ふうん」と頷いた。
他人をまともに騙せたのは何度目だろうかと考える。
「いやあ、無事で本当によかったよ。入野さん、いまいちどんな人だかわからないからね。探し物ってなんだったんだい?」
「なんか、小さいストラップみたいなもの」
「へえ。入野さんもかわいらしい探し物をするんだね」
へええと笑う宮原へ、どうしたと返す。
「入野あかねに惚れたか」
「いや、それはないよ。付き合ったりしたら、絶対に僕半殺しにされるもん」
「同級生として付き合っているおれでさえ半殺しに近い状態にされてるからな」
「でもどうなんだろう。意外と恋人には尽くすタイプだったり?」
「さあ、どうだろうな。入野あかねが他人に尽くしているところなど、想像しただけで嫌なものを感じるが」
「えっ、ちょっと……」
宮原に肩を叩かれ、痛いんだけどと返す。
「入野さんじゃない? 聞かれてないよね……?」
「ああ……」
聞こえたかもなと苦笑すると、数メートル先を歩く入野あかねがこちらを振り向いた。
少しして、特別に表情を変えることもなく前を向いた。
「あのなにもない感じが怖いよ……。教室でめった打ちにされるんじゃないの?」
「まあ、それならやりたいだけやらせればいい」
死んじゃうよと叫ぶ宮原へ、そういうこと言うとお前がやられるぞと返す。