「でも……会社を継ぐ以外に、わたしにできることはない……」
「ある。君は写真家になりたいんだろう?」
「なりたい……。でも、会社を継がなければ、わたしに、あの家での存在意義はなくなる」
「小さな反発で娘を捨てるような親ならば君が先に捨ててやればいい。君が生きられる場所はあの家だけじゃない。
安心していい。君は一人じゃない。最悪の場合には、おれが必ず助ける。
いいか、思い込みは捨てるんだ。
君は生きている。自我があり、夢がある。
選択肢も無限だ」
「会社は……」
「あんな企業では、代用品は無限にある。
だけど、君の人生を代わりに生きられる人はいない。君の人生を決められる人も、操れる人もいない。君だけだ」
紫藤と呟き、顔を歪ませる入野あかねを抱きしめる。反射的な行動だった。
「自分の人生を生きろ。貴様の人生を他人に使わせるな。使用を許可するのは、己の素直な感情だけだ」
腕の中で声を上げる入野あかねの背をさする。
「喉、痛めるなよ」