「ならば変えろ」

入野あかねはふるふると首を振る。

「でも……でも……無理だよ。無理なんだよ……」

「無理じゃない。なにゆえ無理だと思う?」

「わたしは……後継者で、お父さんの望む相手と結婚して……会社を、守らないといけない……」

「違う。思い込みは捨てろ。君は会社の後継者でも父親の道具でもない。写真とカメラを愛する、写真家を目指す高校生だ」

「でも、お父さんからは逃げられない。逆らえない……」

大きな目からあふれるそれは絶えず彼女の頬を濡らす。

おれは両手でそれを拭う。

「逃げられる。いや、逃げるんじゃない。父親を変えるんだ」

「彼は変わらない」

「変わる」

おれは食い気味に言った。

「入野あかねが変われば、やつも変わる」

「でも……わたしが継がなければ、誰が会社を守るの……?」

「会社の長など、ある程度の適性があれば誰にでも務まる。君よりも会社の長に相応しい人材が、君の父親の部下にいるかもしれない。あれほど大きな会社なら、ちょっとやそっとでは潰れない」

でも、と入野あかねは泣きながら呟いた。