「おれが自身を神だと思い込む精神年齢の幼い男だと思うのであればそう思えばいい。

嘲笑も軽蔑も、なんなら説教だって、心ゆくまですればいい。

貴様のその、後に大きな後悔を抱く可能性が極めて高いその思い込みに比べればよほどいい思い込みだ」

そう思い込んでいる、とおれは続けた。

「いいか。親が決めた――そんな運命ならば変えてしまえ。親なんて相手は所詮人間だ、神などの曖昧な存在とは違い、従うのも逆らうのも簡単だ」

「馬鹿じゃないの。紫藤 廉は本当に頭が空っぽね。そもそも脳というものがないんじゃないのかとすら思わせてくれるわ。

わたしはね、父親と彼の祖父が創業した会社の道具なの。

さっきにも言ったとおりね、自我も選択肢も、あるように見せ掛けられて実際はないものなの。それどころか、あっては――」

おれは入野あかねの頭に、右手をそっと載せた。

「さっきからうるせえんだよ」

入野あかねはぴくりと目を見開いた。

少しずつ彼女の丸い目が潤んでいく。

「いいか。おれは貴様の味方だ。それを踏まえて答えろ。

貴様は自分の運命を変えたいか」

しばらくの静寂のあと、変えたいと微かな震えた声が返ってきた。

大粒の涙が綺麗な肌を伝う。

おれはそれを左手で掬った。