「……やっぱり、紫藤 廉なんかを頼りにしたわたしが馬鹿だったわ。なんで紫藤 廉なんかに話そうと思っちゃったのかしら」
入野あかねは震えた声で呟き、目元と頬を拭った。
おれは強く唇を噛み、目を閉じて大きく息を吸った。
はあと息を吐き、同時に唇を開放する。
「いいか。思い込みは捨てろ。思い込みは、内容によっては自分を根こそぎ、同時に、与えられていた可能性をも易易と飲み込む。
思い込みが内容によっては功を奏すこともあるというのは否定しない。実際、凡人には自信過剰なのではないかと思えるような成功者もいる。
しかし貴様のそれは、貴様とともに貴様自身の可能性をも飲み込むそれだ」
「……なんなのよ、偉そうに。あなたには思い込みがないの?」
「まさか。おれにも思い込みはある。おれは自分を神だと思っている」
入野あかねは声を上げて笑った。
こちらへ鋭い視線を向ける目には涙が浮かんでいる。
「馬鹿じゃないの、おっかしい。中学校二年生程度で頻発する病でもこじらせたの?」
そうかもしれないな、とおれは口角を上げた。