「……うるせえよ」

言ったあと、おれは彼女の唇から指を離した。

「……な、なにするのよ。女受けのよさそうな顔してるからって調子に乗ってるわけ?」

ごしごしとブレザーの袖で口元を拭う入野あかねへ「うるせえ」と返す。

「ぶん殴られなかっただけ幸運だと思え」

「……はあ? なに怒ってるのよ」

「別に怒ってない。ただ、貴様の思考に腹が立つだけだ」

「それを怒っているって言うはずなんだけど」

「お前、馬鹿じゃねえの?」

「笑いも馬鹿にもしないって言ったじゃないの」

「前言撤回だ。まさか自分が必死こいて引き出した貴様の不満がこんなにもくだらないものだとは想像もしなかったんだよ」

「……はあ?」

「ていうか貴様自身もくだらないと言われないかと心配していたろう。貴様自身、その不満をくだらないと自覚しているんだろう?」

「違うわよ。わたしは本気で悩んでいるの。

ただ、紫藤 廉のことだからくだらないと言って方を付けてしまうのではないかと心配だっただけ。

まあ、どうやらその心配は的中してしまったようだけれどね」

おれは目を閉じ、一度深く呼吸をした。

自分の髪の毛を掻き乱す。