「結局、わたしの人生は生まれた瞬間から決まっていたのね。
父親のために生まれ、父親のために育ち、後には父親のために彼の望む相手と結婚し、子供を生んで育てる――。
決まっている、どれだけ足掻こうと変えられない、そんなことはわかっているわ。
だけど、こんなのはわたしの求めている人生ではない。
わたしはね、写真家になりたいの。
十二歳の誕生日にね、面倒を見てくれている人にカメラを買ってもらったの。
休みの度に、わたしは彼女と外出し、目に入ったものを片っ端からそのカメラに収めた。
その時間が、わたしは堪らなく好きだった。
ものすごく楽しかったの」
入野あかねは楽しそうな笑みを浮かべた。
「だって、本当に不思議じゃない?
ボディについているあの小さなでっぱり、あのボタンを軽く押すだけで、目の前の景色がそのまま、あの小さな中に記録されるのよ。
その『不思議』が、当時のわたしは大好きだったの。
まあその写真なんて、今見たら、幼子がお気に入りのゲーム機を飾ろうと貼った多量のシールのようなものなのでしょうけれどね。
カメラは少し前にまた買い替えてもらったの。それで写真はまだ撮ってる。
未だに、写真を撮っている瞬間、カメラを抱えている時間が一番楽しくて、大好き。
わたしの写真を集めた冊子が世に放たれたらと、幾度となく想像した。
想像しては嬉しくなって、一人で笑った。
だけどすぐに、現実が自由であるはずの想像でさえ連れ去っていく」
入野あかねは静かに笑みを消した。