「わたしは、会社を継ぐなんてことはしたくない。
両親――特に父親へ、感謝をしていないと言えば嘘になる。
男児を求めていたのに、わたしはこうして女として生まれた。
それなのに、彼は確かにわたしの欲望をほとんど満たしてくれた。
ほしいもの――ほしいアイテムが手に入らないということは、生まれてから今日に至る十七年ちょっとの間で一度もなかった。
周りの人や友人には幸せだねと言われた。
だけど、わたしはそうは思わなかった。
自分の家が、親が、普通ではないと知った瞬間から。
わたしは、アイテムがほしいのではない。
わたしのためを思って褒めて叱ってくれる、普通の親がほしいの。
だけど、その願いは決して叶わない。
わたしはあくまで、現在父親の経営する会社の後継者。
彼がわたしにアイテムを与え続けたのは、恐らく、いえ――きっと、そうすることでわたしに父親に対する感謝の念を抱かせ、おとなしく会社を継がせるため」
入野あかねは唇を舐めた。