「……ちょっと、そんなに見ないでくれる?」
入野あかねはうつむいたまま言った。
「人の話を聴くときには相手の目を見ろと」
「わたしは紫藤 廉にそんなことは言っていない。話し手がわたしの場合はその限りではない」
「へえ。『ちょっと紫藤 廉、ちゃんと聞いているの? わたしがあなたのために話しているというのになんて生意気な』とかいちゃもんつけるなよ」
そんなことしないわよと鋭い声を返され、はいはいと苦笑する。
「……で――」
貴様の不満はなんだと続けようとした声を飲み込んだ。
別に急いでいるわけではないという思考が働いた。
「別に慌てることはない。話したいように話してくれ」
「うるさい、言われなくたってそうするつもりよ」
「はいはい」