自席で腕を組む入野あかね一人だけが残る教室には、まだ照明が点いていた。

「遅かったわね」

「すまないね。小学校卒業までをともに過ごし、中学校の三年間で一度も同じクラスにならなかった友達に偶然再会してしまってね」

「嘘つき」

「すごいな、なんでわかった」

「そんなに長々と友達との関係を話す必要はないでしょう。嘘をつくと口数が増えるなどというけれど、それは現実味を帯びさせるためにいろいろな情報を詰め込むため」

そうなのかと返すと、入野あかねはさあねと肩をすくめた。

「それより……」

「ああ。ようやくおれを必要とする己の現状を認めたのな」

「別にそういうわけではないけど……。紫藤 廉があまりにもわたしに関心があるようだから……その――」

「はいはい。嘘をつくと口数が増えるのは現実味を帯びさせるため。別に他人を必要とすることは恥じ入るべきようなことではない」

入野あかねはおれを見たあと、すぐにうつむいた。

おれは彼女の隣の自席に着いた。