帰りのホームルームが済み、流れるように生徒が教室を出ていく中、おれは席を立った。
「ちょっと、紫藤 廉」
入野あかねの声が呼び止める。
「なんだ、話の途中で漏らされたいか」
「殺す」
「ならばトイレくらい好きに行かせろ」
「わたしを後回しにするだなんて、なんて生意気な」と呟いた入野あかねの声に
「それほどでも」と同じように返すと、「一つも褒めてないし」と聞こえた。
トイレの扉は自動のように開いた。
クラスの違う男子生徒を見送り、中へ入る。
中には誰もいなかった。
流し台に手をつき、鏡に映る自分から目を逸らすように片手で目元を覆う。
「まじか……」
痛いのは好きでないのだがと腹の中にこぼす。
しかしおれの憶測が正しければ、入野あかねはこれからおれの求める話をしてくれる。
右手を目元から離し、流し台へ置く。
左手で耳を飾るピアスに触れた。
彼女を救済するには、このあとこれを外さなくてはならない。
恐らく、ピアスを外したあとの姿のために、おれは念じたことを実現させることができているのだ。
別に死ぬわけではない、問題ないと言い聞かせ、おれはトイレを出た。